高血圧 - 食生活の改善
高血圧や動脈硬化は食事が大問題
高血圧の患者さんは糖尿病の3倍
日本では高血圧の人が多く、高血圧の前段階(境界城高血圧など)も含めると日本人全体の3人に1人、40代以上なら2人に1人程度に見られます。このうち本格的な高血圧になっている人は3500万人(末治療者を含む)にのぼりますが、これは近年激増した糖尿病の約3倍にあたります。しかし、きちんと治療している人はむしろ少なく、たとえ本格的な高血圧になっていても30%程度の人は十分な治療を行っていないのが実情です。高血圧を治療しないと、動脈硬化が進行して脳卒中や心臓病などの危険な合併症になることは前述した通りですが、現在でもそうした病気で死亡する人が多く、その合計数はがんによる死亡者を大きく上回っています。こうした事態を防ぐためには、生活習慣の改善と血圧を下げる薬(降圧剤)で上手に治療し、血圧をきちんと下げておくことが何よりも大切です。
「長寿食」のコツを知っておく
このうち、降圧剤による治療は血圧を強力に下げて合併症を防ぐ効果があるため、ある程度以上の高血圧では欠かせませんが、高血圧の原因そのものを治す作用はありません。これに対して"生活習慣の改善″は、血はを上昇させている原因自体に働きかけるもので、降圧剤をのんでいない人だけでなく、降圧剤をのんでいる人にとっても治療の基本となります。実際に日本人の高血圧では、生活習慣の改善だけでうまく治療できる人が20~30%もいますし、降圧剤をのんでいる人でも、生活習慣の改善で薬の効果と安全性が高まり、高血圧の状態がよくなって薬の量も減らせます。生活習慣を改善するコツはいろいろありますが(128頁)、中心となるのは食生活の改善で、これを上手に行わないと十分な効果が得られません。これらの食事対策を始めるときは、いろいろな栄養素の特徴を知っておくことが大切で、それによって必要な成分を上手に摂取し、治療や予防の効果を高めていくことができます。
「5大栄養素」が協力して作用する
まずエネルギー源に注目
私たちが飲食物からとっている栄養素にはいろいろな種類がありますが、大きく分けると、1.体のエネルギーになるもの(糖質、脂質、たんぱく質)、2.人体の成分の材料になるもの(脂質、たんぱく質、ミネラル)、3.体の種々の働き(生理作用)を助けたり調整するもの(ビタミン、ミネラルなど)の3つのタイプがあります。このうち、「糖質・脂質(脂質類)・たんぱく質」の3つは体のエネルギー源として利用できるためとくに重要で、「3人栄養素」と呼ばれます。これにミネラルとビタミンを加えた5種類の栄養表(「5大栄養素」とも呼ばれる)が欠かせないほか、食物繊維や水などのように「栄養素ではないが、体内で重要な役割を果たす成分」も摂取する必要があります。
各種の栄養素の"総合力″が重要
これらの栄養成分は体内でさまざまに処理されて変化し(→「代謝」と呼ばれる)、いろいろな役割を果たしますが、それぞれの栄養素が別々に働くのではなく、お互いに影響し合って作用し合いながら働いています。たとえば糖質を処理して利用するためには、ビタミンB群やCの助けが欠かせませんし、ビタミンAの吸収には脂質が必要になります。また「糖質・脂質・たんぱく質」の3大栄養素は、糖質が足りないときは脂質やたんぱく質の一部が糖質の代わりに利用されるなど、それぞれの摂取量に応じて、不足分をお互いに補い合うような働きもしています。このように、体内ではいろいろな栄養素が緊密に協力し合い、その総合的な働きで生命活動を支えているため、毎日の食事から各種の栄養素をかたよりなく、バランスよくとることがたいへん重要なのです。
3大栄養素の上手なとり方 - 健康に悪いタイプの糖質は避ける
体に最適のエネルギー源に注目
では高血圧の人は、毎日の食事から各種の栄養素をどのようなバランスでとればよいのでしょうか。「3大栄養素」のうちの糖質については、ブドウ糖や果糖、でんぷんその他のたくさんのタイプがありますが、どのタイプも化学構造のうえでは炭素(C)と水素(H2O)が結合した形になるため、すべて「炭水化物(炭素と水の化合物)」とも呼ばれます。炭水化物は体内で歳末と水に分解され、そのとき1gあたり4キロカロリーの熱エネルギーを発生します。そのため体のエネルギー源として最適で、たいていは1日のエネルギーの半分以上を糖質から得ています。炭水化物で最もかんたんな構造の成分は果糖やブドウ糖など(単糖類)ですが、炭水化物には、こうした糖類が2個結合した砂糖(しょ糖)や乳糖などのタイプ(二糖類)や、糖類が数百個も結合したでんぷんその他の甘味のないタイプ(多糖類)もあります。通常はこれらの糖質(炭水化物)を飲食物からとると、肝臓で半分くらいをブドウ糖に変え、それを血液中に流してエネルギー源として利用します。残りは"貯蔵用の糖質″(グリコーゲン)に変えられて肝臓に蓄えられ、糖質が不足すると使われます。また糖質をとり過ぎると、一部が脂肪に変えられて皮下脂肪になったりします。
でんぷん食品を積極的に食べる
そのため主食の穀物のとり過ぎは禁物ですが、近年は主食より甘いお菓子や清涼飲料などに多い砂糖やブドウ糖、果糖の摂取量が急増しています。これらの甘味の飲食物は体内で中性脂肪に変わりやすいうえ、栄養もかたよりがちで肥満や高血圧、糖尿病などの生活習憤病の誘因になります。逆に、でんぷんが多い穀類やいも類、豆類などには他の栄養素もある程度含まれており、食物繊維も豊富です。ですから生活習慣病を予防するには、でんぷん食品を中心に食べることが大切で、「1日のエネルギーの55~60%を糖質でとる」のが基本です。とくに高血圧や動脈硬化によい食事(長寿食)にするには、でんぷんを含む糖質をやや多めにとって、62%程度の割合にするとよいでしょう。たとえば1日2000キロカロリーをとる人なら、(その62%の)1240キロカロリー(約310g)程度をでんぷんなどの糖質でとるのを目標にしましょう。
脂肪のとり過ぎが生活習慣病を招く
体の"高効率エネルギー″とは?
一方、脂質は「中性脂肪・コレステロール・リン脂質・遊離脂肪酸」の4種類に大別されますが、糖質とともに体のエネルギー源になるだけでなく、人体の成分の材料にもなります。このうち中性脂肪は、脂質の「基本成分」である脂肪酸(しぼうさん)が3個ずつ集まった"貯蔵用の脂質″で、皮膚の下(皮下脂肪)や肝臓に大量に蓄えられており、体内の脂質類の90%以上を占めています(単に「脂肪」と言うときも中性脂肪を指すことが多い)。脂肪は分解するときに糖質の2倍以上のエネルギーを出すため(1gあたり9キロカロリー)、体内では中性脂肪を脂肪酸に分解して血液中に流し(「遊離脂肪酸」と呼ばれる)、緊急時などに効率の高いエネルギー源として利用されます。
脂肪のとり過ぎの人が増えている
そのほか、コレステロールは消化液(胆汁)やホルモン(副腎皮質ホルモン)の原料になったり、体の細胞の膜(細胞膜)の材料になり、リン脂質も細胞膜などの成分になります。このように脂質にもいろいろな役割があり、毎日必要な‥戒は確保しなければなりません。しかし脂質のとり過ぎは肥満につながり、いろいろな生活習慣病の誘因になります。そのため生活習慣病の予防や治療では、「脂質の摂取量を1日のエネルギーの20~25%の範囲に納める」のが基本とされていますが、高血圧や動脈硬化の人はやや抑えめにして、22%程度を目標にしたほうが効果的です。たとえば1日2000キロカロリーをとる人なら、(その22%の)440キロカロリー(約49g)程度を脂質からとるのを目標にしてください。最近の日本人は1日に平均2000キロカロリー強をとっており、あまり変動がありませんが、そのなかで脂質からとるエネルギーだけが増え続けており、その分、糖質からとるエネルギーが徐々に減っています。そのため1997年には1日のエネルギー量の26・6%を脂質からとるようになっており、脂質のとり過ぎが心配されているのが実情です。なお、高血圧や動脈硬化がある人は"脂肪酸やコレステロールのとり方"にも注意が必要です。
たんぱく質の「質と豊」に注意
毎日補給が必要なアミノ酸とは?
たんぱく質は人体の主要成分で、体全体の15%前後(体の固形成分の54%前後)がたんぱく質でできています。もちろん、種々のホルモンや酵素、抗体などの重要な体内物質もたんぱく質からできており、これらの働きで生命活動を根本から支えています。また糖質や脂質が不足したときは、必要に応じて体のエネルギー源としても使われます(1gあたり約4キロカロリーを生む→糖質とほぼ同じ)。たんぱく質はアミノ酸という「基本成分」が100個以上集まってできていますが、アミノ酸には20ほどの種類があり、そのうち8種類は体内で合成できないため毎日必ず摂取しなければなりません(→必須アミノ酸)。こうした重要なアミノ酸は、肉や魚介、牛乳、卵などの動物性の食品に理想的なバランスで含まれています。しかし、これらの食品は脂肪も多めで、動物性脂肪のとり過ぎにつながりやすいという問題もあります。逆に大豆製品などの植物性たんぱくは、動物性たんぱくよりアミノ酸のバランスが多少落ちるものの、脂肪は動物食品より少なめです(大豆たんぱくは、血管を強化して脳卒中を予防する効果が高いとされている)。
たんぱく質は16%程度がよい
たんぱく質には、高血圧で問題になる「体内にたまった余分なナトリウム」、を体の外に排泄したり、血管を強くしなやかにして、傷んだ血管を保護して回複を促す働きもあるため、十分摂取する必要があります。しかし、たんぱく質のとり過ぎ(毎日100g以上)も、高血圧の食事療法で重要なカルシウムを排泄させて腎臓に負担をかけるなど、悪影響があるので注意が必要です。たんぱく質のとり方は、「1日の総エネルギー量の15~20%にする」のが基本とされていますが、高血圧や動脈硬化の人はやや抑えめにして、16%程度の割合にするのが理想的です。つまり1日2000キロカロリーをとる人なら、(その16%の)320キロカロリー(約80g)程度を目標にするとよいでしょう。この場合、たんぱく質の"グレード(質)"を高めるために、動物性たんぱく(魚介、肉、卵など)と植物性たんぱく(大豆製品など)を半々程度に組み合わせ、主菜として毎食(朝・昼・夕)必ず食べることが大切です。近年、日本人のたんぱく摂取量は1日80g前後で安定していますが、動物性たんぱくの割合が50%を超えて増えているので、植物性たんぱくとのバランスに注意する必要があります。
▼3大栄養素の理想的なバランスは?
| 栄養素 |
基本的な目標 |
長寿食の目標 |
| 糖質 |
総エネルギーの55~60%
(1100~1200Kcal/275~300g程度) |
62%
(1240Kcal/約310g) |
| 脂質 |
総エネルギーの20~25%
(400~500Kcal/44~56g程度) |
22%
(440Kcal/約49g) |
| たんぱく質 |
総エネルギーの15~20%
(300~400Kcal/75~100g程度) |
16%
(320Kcal/約80g) |
※表のカロリー数(Kcal)と重量(g)は、1日に2000キロカロリーをとる場合の数値。
※長寿食の目標は「長寿の人の食事の分析報告」にもとづく数値。
血圧を下げるたんぱく質
たんぱく質のなかで、とくに血圧を下げるのに日ざましい活躍をするのはタウリンやメチオニンなどのタイプ(含硫アミノ酸)です。このうちタウリンは、いわしやさんまなどの背の青い魚や、かき、いか、たこなどの魚介類にたくさん含まれていて、自律神経(交感神経)の働きを調えたり、ナトリウムの排泄を促す働きがあります。また腎臓の機能を強化して腎臓の血流を改善し、血圧を下げる作用を示すと考えられています。
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